賃貸物件で入居者が死亡したときの対応|告知・清掃・再募集の流れ
不動産業に携わっていると、個人のオーナー様から「入居者が部屋内で不慮の死を遂げ、次の募集をどうするか困っている」というような悩みを受けることがあります。
不動産管理会社が管理している物件であれば、管理会社が対応しますが、個人のオーナー様の場合、次のお部屋付けに懸念を抱える方が多く、そのまま空き部屋になったり、中には売ってしまう方など、さまざまです。
この記事では、所有物件で入居者が亡くなった場合に、死亡確認後の初動、残置物、特殊清掃・原状回復、告知判断、次の入居者募集までを実務の流れに沿って整理します。
入居者が亡くなった場合は、①事実関係と関係者を確認する、②残置物を勝手に処分しない、③室内状態を確認して必要な清掃・原状回復を行う、④国土交通省ガイドラインに沿って告知の要否を整理する、⑤賃料・募集条件を個別に決めて再募集する、という順番で進めると整理しやすくなります。
人の死の告知に関するガイドライン
国土交通省は2021年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました。2026年時点でも実務上の重要な判断基準で、国土交通省では2024年3月時点の概要版も公開しています。詳しくは国土交通省の公式ページをご確認ください。
ガイドライン策定以前は、宅地建物取引業者による調査・告知の判断基準が明確でなく、取引現場で判断が難しいことが、円滑な流通や安心できる取引を阻害する要因の一つと指摘されていました。
ガイドラインは、居住用不動産で人の死が生じた場合に、宅地建物取引業者が宅地建物取引業法上どのように調査・告知すべきかを整理した判断基準です。
原則として告げなくてもよい場合
| ①【賃貸借・売買取引】 | 取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥(ごえん)など)。 ※事案発覚からの経過期間の定めなし。 |
|---|---|
| ②【賃貸借取引】 | 【賃貸借取引】取引の対象不動産・日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した①以外の死・特殊清掃等が行われた①の死が発生し、事案発生(特殊清掃等が行われた場合は発覚)から概ね3年間が経過した後 |
| ③【賃貸借・売買取引】 | 取引の対象不動産の隣接住戸・日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した①以外の死・特殊清掃等が行われた①の死 ※事案発覚からの経過期間の定めなし |
自然死や日常生活の中で起きた不慮の死については、原則として告げなくてもよいと整理されています。ただし、特殊清掃等が行われた場合や、買主・借主から質問された場合などは扱いが異なるため注意が必要です。
※ガイドラインでいう自然死には、老衰や持病による病死などが含まれます。また、転倒事故や誤嚥など日常生活上の不慮の死も、原則として告知不要の対象に含まれます。
孤独死の場合はどうなるのか?
自宅で死亡した一人暮らしの人は76,941人
この数字は「孤独死件数」そのものではなく、警察取扱死体のうち自宅で死亡した一人暮らしの人の統計です。告知の要否は件数ではなく、死因・特殊清掃の有無・事案の事情などで判断します。
出典:警察庁「死体取扱状況」 / 詳細は孤独死と告知の考え方
「孤独死」という呼び方だけで告知の要否が決まるわけではありません。老衰・持病などの自然死で、特殊清掃等が行われていない場合は原則として告げなくてもよいとされています。一方、発見が遅れて特殊清掃等が行われた場合は、賃貸借取引では経過期間等も含めて告知の要否を判断します。
入居者死亡後の初動で確認すること
入居者の死亡が判明した直後は、まず警察・救急等の関係機関や親族・緊急連絡先、管理会社などと連携し、事実関係と今後の対応主体を確認します。室内の物品を独断で移動・廃棄せず、必要な確認や手続きが終わってから原状回復へ進むことが重要です。
賃借人が死亡すると、賃借権や室内の家財等は原則として相続人に承継されます。相続人の有無や所在が分からない場合は、貸主だけの判断で残置物を処分するとトラブルになる可能性があります。国土交通省・法務省は、単身入居者の死亡後に賃貸借契約の解除や残置物処理を円滑に行うための「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しています。詳しくは国土交通省の公式ページをご確認ください。
入居者が亡くなったあと、契約と残置物はどうなる?
賃貸管理の現場で混同しやすいのが、「室内の清掃が必要なこと」と「賃貸借契約が終了していること」は別という点です。一般的な建物賃貸借では、入居者の死亡だけで契約が当然に終了するわけではなく、賃借権や家財等は原則として相続人へ承継されます。
警察・救急等の関係機関による対応状況を確認。現場の安全や関係者の意向に配慮し、確認内容と連絡履歴を残す。
相続人・同居者・緊急連絡先や保証会社、賃貸借契約の内容を確認し、誰と手続きを進めるか整理する。
遺品等は権限を確認するまで無断処分しない。室内状態に応じて専門業者と作業範囲を検討する。
契約終了・鍵の返却・原状回復費用・次の募集時の告知を個別に確認して再募集へ進む。
国土交通省・法務省は、賃貸借契約の解除や残置物処理をあらかじめ委任するためのモデル契約条項を公開しています。2025年10月には活用ガイドブックやQ&Aが更新され、改正住宅セーフティネット制度に関連する案内も追加されています。モデル条項は事前に適切な委任契約を結ぶ場合のひな形で、死亡後に貸主が一方的に処分できる制度ではありません。
自然死の場合、募集するまでの段取りについて
自然死や日常生活上の不慮の死は原則として告知不要ですが、発見まで時間がかかって特殊清掃等が行われた場合などは別途検討が必要です。
ただ、人が亡くなっているという事実を踏まえ、早期発見した場合でも、これまで以上に入念にお部屋をチェックをする必要があります。
①念のために臭いが残っていないか入念に確認する
②体液が残っていないか入念に調べる。特に畳は染み込みやすいのでチェックが必要
自然死であっても、特殊清掃が必要かどうかは発見までの時間、臭気・汚損、床や壁の状態などによって異なります。一般清掃・原状回復で足りる場合もあれば、専門業者による特殊清掃が必要な場合もあります。
原状回復後は、オーナーまたは管理会社が室内状態を確認し、臭気や汚損が残っていないかをチェックしてから募集を再開するとよいでしょう。
問題がなければ、原状回復後に通常どおり募集を進めます。募集賃料を下げるかどうかは、物件の状態や周辺相場、入居者の反応を見ながら個別に判断するのがよいでしょう。ガイドラインがあるからといって、賃料設定が一律に決まるわけではありません。
募集方法については以前の記事でも紹介しているので参考にしてみてください。
自殺・他殺などの場合、次の段取りまで
賃貸借では、自殺・他殺など自然死等以外の死や、特殊清掃等が行われた自然死について、事案発生(特殊清掃等が行われた場合は発覚)から概ね3年が経過した後は、原則として告げなくてもよいとされています。ただし、社会的影響が大きい事案や、借主から質問された場合などは例外です。
この「概ね3年」は、宅地建物取引業者が宅地建物取引業法上どのように告知すべきかについての目安です。3年が経過したからといって、すべての事案で機械的に告知不要になるわけではありません。事件性・周知性・社会的影響が特に高い場合や、借主から質問された場合などは経過期間にかかわらず告げる必要があります。
告知の要否に迷う場合は、事実関係を整理したうえで、管理会社・宅地建物取引士等とガイドラインに照らして確認することが重要です。
原状回復について
原状回復では、室内状態に応じて一般清掃・リフォーム・特殊清掃のどこまで必要かを判断します。以前あった事例では、一般的な原状回復を行ったものの臭いが残り、その後に特殊清掃を追加したため、費用と工期が二重に発生しました。
人の死があったから必ず特殊清掃を入れるというものではありません。臭気、汚損、発見までの期間、床下や壁への浸透状況などを専門業者と確認し、必要な作業範囲を決めることが重要です。
特殊清掃が必要な場合は、作業範囲、脱臭方法、遺品整理の有無、追加費用などを確認し、必要に応じて複数の専門業者から見積もりを取ることをおすすめします。
賃貸では「概ね3年」が一つの目安(例外あり)
自然死等以外の事案では、経過期間や社会的影響、借主からの質問の有無などを踏まえて告知の要否を判断します。「3年経過=必ず告知不要」ではない点に注意しましょう。
再募集前のチェック|現場の確認をどう記録する?
例えば、発見が遅れた部屋で一般清掃だけを先に発注すると、あとから臭気の原因が見つかり、床材の再施工などが必要になることもあります。最初に以下の事項を確認すると、費用と日程をオーナーに説明しやすくなります。
- 残置物:相続人や受任者など、片付けの権限を持つ人と対象物を明確にしたか。
- 室内状態:臭気・床壁材・設備・汚損範囲を確認し、清掃と修繕の見積を分けたか。
- 支払関係:清掃・修繕・賃料等の負担や保証・保険の補償範囲を契約資料と照合したか。
- 募集条件:原状回復後の室内状態、賃料相場、告知すべき事実、募集図面や説明内容を確認したか。
入居者死亡時のよくある質問
Q.入居者が亡くなったら家賃はその日で止まりますか?
通常の賃貸借では、死亡だけで契約が自動的に終了するとは限りません。家賃の精算や契約終了日は、契約内容と相続人等との手続きによって整理します。特殊な契約類型では扱いが異なる場合があります。
Q.自然死でも特殊清掃をしたら必ず3年間告知しますか?
宅地建物取引業者の告知判断では、賃貸の一部事案について概ね3年という目安がありますが、機械的な義務期間ではありません。事件性・周知性・質問の有無など、個別の事情も確認します。詳しい区分は国土交通省ガイドラインの解説を参照してください。
まとめ
この記事では、賃貸に出している物件において、もしお部屋の中で、自然死あるいはそれ以外の死因によって人が亡くなった場合、次の募集に向けてどう段取りするかについて紹介しました。
2021年に人の死の告知に関するガイドラインが策定され、宅地建物取引業者が人の死についてどのように調査・告知すべきかの判断基準が整理されました。
もしお部屋で人が亡くなってしまった場合でも、最新のガイドラインを確認し、管理会社や宅地建物取引業者と事実関係を整理しながら対応することが大切です。
